私的植物生活概論

植物目線なライフスタイルマガジン

MENU

いとうせいこうの『自己流園芸ベランダ派』を植物に興味がない人にこそオススメしたい【書評】

どうぞ茶でもすすりながらお楽しみ下さい。

そんなまえがきを律儀に守るタイプのわたしです。ここは広義での「お茶」という捉え方をしていて、つまり「ちょっと一杯」が全然ちょっとじゃないし、当然一杯でもないあの感じです。だからコーヒー飲んでます。こういう言葉の感覚からして、わたしはいとうせいこうの文章が好きです。

サクサク読めるよ!

さて、この本は新聞連載されたコラムを1冊にまとめたものです。コンパクトで読みやすい文章がぽんぽん続くので、とても楽しかったです。ブログを日常的に書いたり読んだりする人にとっては慣れている空気感だと思います。そうでない方でも、植物の難しい用語など出てこないので楽しめる1冊です。

また、終盤には「いとうせいこう×柳生真吾」と「いとうせいこう×伊藤比呂美」の2つの対談が収められています。植物についての話なので優しい雰囲気もありますが、それだけに留まらないとてもエキサイティングなパートになっています。

自己流園芸ベランダ派 (河出文庫)

自己流園芸ベランダ派 (河出文庫)

わたしがハイライトをした箇所を一部引用しながらご紹介します。

秀逸な見立て

藤の花の穂がいくつも垂れて開花を待っているのは、今は桜に主役をゆずっておこうというスター同士の余裕だろうか。
始まりのご挨拶 ―福音の春が来た―

藤や桜など人気のある花をスター植物と見立てています。他の植物のパートも、この見立てが毎回おもしろく的を射ているのです。植物好きな人はたぶんニヤニヤしますし、そんなに詳しくない人にも植物の雰囲気がわかりやすいと思います。

わたしが灯台もと暮らしで書いている連載(#もとくり)はいわゆるスター植物を取り上げることが多いです。植物に特別興味がない方にも、花の魅力を伝えるために、スター達の力を借りない手はないのです。


【今日の一輪】夕日に秋の訪れを感じる「コスモス」と私 | 灯台もと暮らし

先日、コスモスについての記事が公開になりました。ぜひ読んで下さい。

アウトレット品について

値崩れを狙ってすかさず買い、ベランダで養生して翌年咲かせる過程がまた面白いのだ。
沈丁花 ―「特売品」は翌年用―

値崩れした特売品を買い、養生する面白さは1回成功するとハマってしまいます。わたしはアウトレット品と呼んでいますが、園芸店に行くと真っ先にチェックするコーナーです。わたしの部屋にあるオーガスタも、クレマチスもアジサイもクリスマスローズもアウトレット出身です。このブログの一番最初の記事も、特売品のミニバラについてでした。
謙虚に咲く赤 #ミニバラ - 私的植物生活概論

園芸という行為は不自然である

俺はすっかり自然愛好家のつもりになっていたのだが、そもそもベランダーという存在自体が生命にとって不自然なのだ。
カクテルローズ ―無剪定主義者の転向―

そもそも、鉢植えにする行為が不自然な行為ですが、それを育て慈しむ姿勢はたぶん、愛があるのだと思います。

わたしは人の存在が介在してこそ、花や植物は美しいと考えています。園芸愛好家は、自然愛好家とかエコロジスト、農的な暮らしとかロハスとかオーガニックとか、そういうのとは違ったクラスタにいて、この辺をあーだこーだ考えている面倒くさい時間が、けっこう好きです。

人の雰囲気と花の組み合わせは多弁である。
水仙 ―見知らぬ人へのお見舞い―

人の好きな花とか、聞くの楽しいよね。


植物の死について

都会の光化学スモッグやヒートアイランド現象に辟易したのである。ほぼ自殺と見ていい。
朝顔 ―劣悪な都会の夏―

植物を育てることは、植物の命を看取ることでもあります。植物をダメにしたことのない園芸愛好家は存在しないでしょう。著者の本には必ず、植物の死が書かれます。これは園芸実用書との決定的な違いとなっており、その分、読者はその植物の生死のエピソードに没入していきます。

わたしの場合はこれ
植物をダメにした時、声に出して読みたい言い訳3選 #ズルい女 - 私的植物生活概論

枯れることもまた、植物の生命の一サイクルなのだから。
終わりのご挨拶 ーそして、さようなら―

植物の生死については「ボタニカル・ライフ」の方にもよく出てきます。

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)

ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)

ベランダー界の聖書『ボタニカル・ライフ』(著・俺)

バイブルです

対談パートがめちゃくちゃ面白い

本の終盤には2つの対談があって、それがめちゃくちゃ面白い。この部分だけでも読んで良かったと思っています。園芸家の柳生真吾さん、詩人の伊藤比呂美さんとの対談が収められています。わたし対談モノって今まで敬遠してきました。偏見ですけど、まどろっこしいの多くないですか? この2つはどちらもコンパクトで、パッキパキなキーワードで、テンポよく一気に読めます。

展開がエキサイティング過ぎてわたしの能力でちょっと要約できないんですが、キーワードをいくつか。

  • 大自然が怖い
  • 自然のようで人工的
  • 花を書くのか、撮るのか
  • 自然と付き合うのに必要なのは教養
  • 枯らしたらどうしよう、が邪魔をする
  • 植物の原風景=トロ箱のいじけた植物
  • 東京オリンピック前後の園芸感覚
  • テクニックに走る人は、哲学を忘れる

上手くまとまらないので、最後に著者の言葉をお借りして、強引に締めたいと思います。

いとう:せっかくの園芸なんだから、やっぱり芸がないと。

自己流園芸ベランダ派 (河出文庫)

自己流園芸ベランダ派 (河出文庫)

2016,9 晴れ

追伸

全体を通して面白いんですが、油断してると目頭が熱くなるエピソードが出てきます。「月下美人 ―大切な一夜の花―」はホントにグッとくるし「ベランダー路上派に愛を込めて」はすごいインターネット的な園芸コラムだから、ぜひ読んで欲しい!